人の一日に必要なもの | Hiroshi Osada 書道作品 japaneseart japanese calligraphy 書家 田川悟郎 Goroh Tagawa


人の一日に必要なもの

poem by Hiroshi Osada
352/365 : 2018/12/18


末期ガンになって以来、少なからず以前よりも真剣に「生きざま」について考えるようになったわけですが、そんななか、ジワジワとココロの底のほうに染みついて離れなくなったのがこちらの一文です。

これは詩人、長田弘さんの「人の一日に必要なもの」という作品の最後の一節。
もしお時間あればじっくり味わってみてください。


「人の一日に必要なもの」 長田弘

どうしても思いだせない
確かにわかっていて、はっきりと
感じられていて、思いだせない。
思いだせないのは、どうしても
ことばで言えないためだ。
細部まで覚えている。
感触までよみがえってくる。

ことばで言えなければ、
ないのではない。
それはそこにある。
ちゃんとわかっている。
だが、それが何か
そこがどこか言うことができない。
言うことのできないおおくのもので
できているのが、人の
人生という小さな時間なのだと思う。
思いだすことのできない空白を
埋めているものは、
たとえば、
静かな夏の昼下がり、
日の光のなかに降ってくる
黄金の埃のようにうつくしいもの。
音のない音楽のように、
手につかむことのできないもの。
けれども、あざやかに感覚されるもの。
アンタレスのように、確かなもの。
人の一日に必要なものは、
意義であって、
意味ではない。